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J. P. ホーガン「星を継ぐもの」~ド定番だろうが古典だろうが真に面白かった本だけを紹介していく~

ド定番だろうが古典だろうが真に面白かった本だけを紹介していくシリーズ。今回はJ.P.ホーガンの傑作SF「星を継ぐもの」をご紹介する。

 

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あらすじ

星雲賞受賞作】
月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作

 

本作はこの記事のサブタイトルに相応しい古典SFミステリーのド定番、傑作中の傑作だ。この本の魅力の1つはあらすじにある巨大な謎に科学者たちが全霊をもって挑むそのプロセスにあるのではないかと思う。

 

ニュートンは「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです」と語ったとされる。その言葉どおり、科学の発展とは無数の研究の成果の積み重ねであり、一人ひとりの科学者たちの貢献は膨大なジグソーパズルのピースのほんの1つにすぎない。

 

しかし、その小さなピースは確かに次の発見へとつながっており、当初はつまらないことに思えた発見も実は新たな道筋を示す重要な手がかりになっていることがある。本作ではそんな科学の純粋な面白さが壮大なスケールの謎に対して繰り広げられるのだから、これは面白くならないはずがない。当代きっての科学者たちがあーでもない、こーでもないと火花を散らし論争を繰り返しながら、しかし純粋に真実を探求していく過程が本作の最大の見どころだろう。

 

作者のホーガン自身は工学系のバックグラウンドを持っていたようだが、作中での学問領域は数学、宇宙物理学、生物学、言語学と非常に幅広くカバーされており、その精緻な描写には並々ならぬ勉強の後が伺える。

 

(余談だが、この作品はホーガンが専業作家になる前に書いたデビュー作らしい。どのSF作家もデビュー作は結構当たりが多いイメージがある。)

 

忘れてはならない点がもう1つある。SFの魅力=科学的な緻密さ×物語の壮大さだとすると、本作はその後者の壮大さという意味でも最高点を叩き出せるハイレベルな作品だと言える。ネタバレは避けるが、すべてのピースがぴたりとはまり、最後に浮かび上がってくる真実は文字通り宇宙規模の壮大さであり、一読の価値がある。

 

序盤の舞台設定で読み疲れてしまったり、結構小難しい話もあってうんざりする人もいると思うが、多少は飛ばして読んでも問題ないので是非ともエピローグまで辿り着いて楽しんでもらいたい。