ド定番だろうが古典だろうが真に面白かった本だけを紹介していくシリーズ
あらすじ
世の中で面白い本と呼ばれるカテゴリがあるとして、その定義は人によって異なる。僕の場合、何度も読み返したくなるものが1つの定義ではないかと考える。
面白い本というのは必ずしも読み終わった際に清涼感の得られるものとは限らない。この「玩具修理者」の読後感は非常にねっとりとして汗ばんだものであるはずだ。にも関わらず僕は既に4回も再読してしまっている。その不可解(あるいは不可快?)な魅力の秘密はどこにあるのだろうか。
1つは小林泰三のドライでシンプルな文章にあるのではないかと思う。
本作は30分ほどで読めてしまう短い文章で、その中で語られるのは姉と弟の間で交わされる他愛もない会話だけだ。自分が体験した事実をそのまま語って聞かせる。その過程では矛盾も余分な付け足しも必要ない。そんな淡々とした語りが不気味さの根源でもあり、嫌みのない不快感にも繋がっているのではないか。
2つめは逃げ場のない怖さだ。
人は恐怖の対象に出会うと無意識にその理由付けを考える。誰もいない家で音がすると「あれは家鳴りだ」と自分を納得させたりする、あれのことだ。
本作では読者は弟の立場に自身を投影して読み進める。弟は姉が語る嘘のような話に逃げ道を探すかのように論理のほころびを探す。しかし、その行く先々で姉が逃げ道を塞いでいき、逃げ場のないラストに繋がる。ドライで論理的な語り口がここにも効いているのだ。
この本を読んでいない人でも、名前だけは聞いたことがある人もいるのではないかと思う。ハンターハンターという漫画に名前が取り上げられているからだ。ダークなSFという小林泰三の世界感はハンターハンターの読者も気に入る人が多いのではないだろうか。