この記事は官僚である筆者が自主休職して社会人博士を目指す様子をお届けする雑記帳である。
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僕が博士課程に進むにあたって、一番苦労したのは自分の研究テーマを考え出すことだった。今回はその作業について僕なりの体験をご紹介する。
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僕は修士までやっていた水と衛生に関わる分野で博士号を取ることにした。
その専攻はこれまでやっていた理系の内容ではなく、文系チックな内容にした。
なぜかと言うと、1つには水と衛生の問題は特にアフリカなどの地域でひどく、そこには文系的なアプローチ、つまり社会の在り方や経済事情などの分析が求められているからである。
優れた技術があってもそれを買えない、買おうと思わない人たちの暮らしを改善していく必要があると考えたのだ。
加えて、これはかなり俗っぽい話だが、理系と文系の両方の専門知識を持っている人材は珍しいので、希少価値が高い「レア人材」として自らをブランディングできるのではないか、という打算もあった。
だが、ここで社会人博士への道のりで最初にして最大の壁にぶち当たったのである。
「研究テーマが思いつかない・・・」
水衛生については修士まで学んで土地勘はあるはずだったが、2,3か月ほど漠然と考え続けてもさっぱり良いアイデアが降りてこない。〆切前の漫画家はこんな気持ちだろうか、などと思いながら頭をひねるが、何も妙案が出ない。
そんなある日、なぜ考えがまとまらないのかについて、衝撃的なまでに初歩的な結論に思い至ったのである。
「そもそも考えを巡らせるほどの基礎知識が自分の中に無いのではないか?」
今から思うと、我ながら何というお粗末な結論だろうか。
修士課程の当時はそれなりに勉強もして、論文も読んで、海外でフィールド調査もしたという自負があったが、その経験に僕は完全にあぐらをかいてしまっていたのである。
今まで理系の視点からの勉強しかしていない人間が畑違いの文系の分野に進もうというのにも関わらずだ。
これは取材もしないくせに良い記事が書けないと悩む記者みたいなものだろう。
こんな単純明快な考えに2,3か月たってようやく到達した僕は、そこから興味のある論文を読み漁るようにした。
1つ読んではその参考文献から次の面白そうな論文を見つけてまた読み、それらの中身を簡単に表にまとめていくことにした。これは僕が忘れっぽいからでもあるが、そうでない人でも一度読んだものを自分なりに短くまとめるというアウトプット作業をかますと理解がぐっと深まるという利点もある。
20本、30本と読んでいったところで、その分野で今何が問題なのか、どういう研究ができているのかが少しずつ分かり始めてきた。更に読み進めていると、こういうことが欠けているのではないかという自分なりの考え方も徐々に芽生えてきた。
おそらくこのインプットーアウトプット作業はやればやるほど考えが深まっていくのだろうが、それなりに時間も頭も使う基礎トレのような作業なので正直つらかった。「研究テーマを探すためにやっているんだ」という目的意識は忘れないようにして気を確かに持つ必要がある。
また、ただ読むのではなく、自分ならどうするだろうかという、どちらかというと少し批判的な目線でやるのが肝心なように思う。
この作業を通じてまとまってきた自分の問題意識を形にしたのが研究テーマなのだが、僕の場合は初案の段階からはかなり変更が入った。大学時代の先生や留学先のスーパーバイザー、あとは周りで話が通じそうな人に意見を聞くことが有益だった。
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