研究者ほどたくさんの迷惑メールにさらされる職業もなかなか無い。
論文を公表すると必ず著者のメールアドレスを公開することになり、それが膨大な有象無象の輩を呼び込むからだ。どのくらいかというと、毎朝のメールチェックで迷惑メールと必要なメールに仕分けするところから始めないといけないほど。
我々日本人は英語の迷惑メールを受け取ることに慣れていないので、耐性も低い。博士課程や修士課程を始めたばかりの人などは尚更だ。
ということで、今回は研究者が受け取る迷惑メールをタイプ別に分類して、警鐘を鳴らしておくことにする。
パターン1:うちの雑誌で論文公表しませんか?系
先に研究者コミュニティに馴染みがない読者の方にご説明しておくと、研究者に届く迷惑メールで一番多いのは出版社(ジャーナル)からの連絡だ。
出版社は研究者の書いた論文を自社のHPに載せてあげる立場であり、近年は研究者側が数万から数十万円という支払うのが相場になっている。
HPに論文を載せてもらうには基本的に出版社が差配する厳密な審査を通過しなければいけない。
しかし、近頃はこの審査をガバガバにして、お金さえもらえば論文の質に関係なく載せてあげようとする悪質な出版社が存在する。
このような悪質業者(ハゲタカジャーナルとも言う)にとっては、論文の中身はどうでもよく、1本でも多くの論文を自社から発表することが目的となる。
なので、全然分野が違う雑誌の出版社から連絡が来たりする。例えば、
おたくの研究(物理学)は非常に意義がありそうですね。うち(経済学)の雑誌に投稿しませんか?
といった感じ。
この手のお誘いは99%迷惑メールと断言できる。なぜなら、まともな出版社(ジャーナル)には研究者の側からたくさんアプローチがあるので、わざわざ自分からお誘いなどしないからだ。
仮に真面目な出版社からのメールが100に1の割合であったとしても、そのような方法で研究者を集めないといけない雑誌はそもそも誰も読んでいないので、載せる意義がない。
パターン2:学会で発表しませんか?系
次に多い迷惑メールがこの「学会で発表しませんか?」というもの。
これに関しては迷惑メールかそうでないかを見分けるのはパターン1よりは難しい。が、僕の経験上、今まで一度もホンモノのお誘いメールだったことはないのでほぼスパムと考えて間違いない。
見分け方はまず本文を読んでみる。自分の専門分野と関係の薄い学会であればその時点で迷惑メール確定だ。
もし少し自分の専門と近いなというものであれば、その学会や会議の名前でググってみると良いだろう。何回も開催されているような歴史のあるものであれば、過去の登壇者を調べられるはずだが、だいたいはヒットしないだろう。
どうしても確証が持てない場合は、自分の周りの先生たちに、こういう学会があることを知っているか聞いてみてもよいかもしれない。狭い業界なので、まともな会議であれば周囲の誰かが知っていなければおかしい。
そもそも、若手研究者の多くは無名だし、よほど業績を挙げていない限り、向こうから声をかけてくれることなどない。世界中の研究者の中から自分に話が来るのは稀なことだし、その場合は基本的に知り合いのツテを辿って話が来る。
唐突にメールでお誘いが来たら、それは偽企画か、良くても参加費目当ての謎イベントだろう。
パターン3:論文を読んで感動したから研究者友達になりましょう!系
研究者ネットワークを広げたいから連絡した、という連絡もたまにある。これが最も見分けにくいパターンだ。
↓の方が書かれているのとほぼ同じ内容を受け取ったこともある。
ハゲタカジャーナルは、もう少し設定を詰めてからメールを送った方が良いと思う。|猫と人間が付属している眼鏡
筆者に来たメールには、
あなたが出版した●●という論文、読んで感動して同僚にも共有しました。将来、同じ分野で研究を深めるなら私が編集委員をしているジャーナルにも是非投稿を考えてみて。(中略)来月スペインの学会があるから、あなたももし参加されるならそこで会いましょう。念のためWhatsappの番号を交換しておきたいです。
▲▲学博士 XXXX(名前)
とあった。
確かに▲▲学は自分の専門分野だし、自分は参加しないが来月スペインで学会はある。しかし、先方は何の学会かを書いていない。メールアドレスを知っているのに初対面でWhatsappの番号を聞いてくる意味も分からない。
この時点で迷惑メールだと大体悟ったが、念のためGoogle Scholarで相手の名前を検索してみた。
ジャーナルの編集委員をするほどの研究者なら必ずそれなりの業績があるはずだが、それらしき人は1人も見つからなかった。
次に、編集委員をしているというジャーナルを調べてみると、やはりハゲタカジャーナルリストに入っていた。
ということで、おそらく架空の人物だ。もし返信してwhatsappの連絡先を知られると次は何が起こるのか、想像すると恐ろしくなってくる。
以上が代表的な迷惑メール3パターンだ。特に論文を初めて発表したとか、プレプリントに載せたという方は、これから来るであろう迷惑メール攻撃に十分ご注意いただき、安全な研究生活を送っていただけると幸いである。