おーい、えび。

えびのたわごと

英語が下手な研究者にも優しい世界を作ろう、という記事を読んだ感想

面白い記事を読んだ。

theconversation.com

 

日本のような非英語圏の国の研究者たちは、研究成果を論文として公表する場合、国内の人に読んでもらいやすい母国語で出版するか、世界の人に読んでもらえる英語で出版するかを選ばなくてはならない。

 

この記事では、計736の学術雑誌(ジャーナル)の論文掲載ポリシーを対象に、英語を母語としない研究者が英語で論文を投稿する時にどれだけ配慮されるかを調査したというもの。

 

予想は皆さんのご想像どおり、結果は非英語圏の人たちにとって非常に厳しい現実を示していた。

 

調査によれば、

英語の下手さだけで論文を不採用にすることはしないと宣言をしていたのは、736誌中、たったの2誌。編集者や査読者たちに対して、研究の質のみで評価するようにと教育しているジャーナルも全体の4~6%に留まる。

 

英語以外で書かれた論文を受け付けるとしていたジャーナルは全体の7%のみ。(注:受け付けるといっても恐らくフランス語とかのメジャー言語限定で、日本語のようなマイナー言語は含まれないと思われる。)

 

英語で採択された論文を英語以外の言語に翻訳してウェブサイトに公開していたのは11%。

以上が主な結果だった。

 

こういう問題を調査してくれたのが英語ネイティブの人だと良いなと思って調べてみたが、どうやら筆者はコロンビア出身の方らしい。

 

別の論文ではこんな図も。

https://journals.plos.org/plosbiology/article/figure/image?size=medium&id=10.1371/journal.pbio.3002184.g005

Cited from "The manifold costs of being a non-native English speaker in science | PLOS Biology"

 

 

英語圏に生まれた人たち、特に日本のようにアルファベットすら使わない言語体系の国の人たちにとっては、論文を英語で読むのも書くのも非常に負荷のかかる作業だ。文献を読むのも英語だし、考えるのも英語となると、あらゆるスピードがネイティブよりも圧倒的に遅くなる。文法をカンペキにしろと言われれば安くない金額を払って校正サービスを使わなければならない。

 

英語に対する恨みつらみを書きだせばきりがない。

 

このように、単に生まれ育った言語の違いによって不利益をこうむるのは言語差別というらしい。そして、国際的なコミュニケーションの大部分が英語でなされていて、英語ネイティブであることが心理的、経済的、その他あらゆる面で圧倒的に有利に働いてしているような状況は英語帝国主義というらしい。

 

確かにそうだよな、と思う。

 

人種や性別の違いで有利不利が決まるのが差別なら、言語による待遇の違いも差別になりかねないよな、と。唯一違うのは、言語は後天的に身に付けることもできるということだろうか。

 

ただ、違う言語を後天的に身に付けるのは圧倒的に時間がかかるし、コストもかかる。その負担を当然の努力とみなすことはできないはずだ。

 

 

記事の内容に戻ると、1点目の「英語の質じゃなく論文の質で評価すべし」は今すぐにでも推進すべき動きであるように思う。非英語話者も含めたより多くの人が参加できるフェアな競争環境でないと科学の発展が阻害されてしまう。

 

2点目と3点目は「英語以外の言語にも門戸を開く」ことが求められるが、これは実際問題として解決できる部分とそうでない部分があると思う。

 

「英語以外で書かれた論文を受け付けるか」という点については投稿された原稿を読める人がいないので難しいだろう。翻訳AIの技術が向上してきたとはいえ、微妙な意味合いを寸分たがわず伝えられるレベルにはない。結局、世界で一番話者が多い英語が現実的な解決策と言わざるを得ない。

 

記事では、英語翻訳サービスをジャーナル側が提供するという選択肢も調査・議論されていたが、その費用をだれが負担するかという話になり、ただでさえ高額な投稿料の上乗せに繋がってしまうかもしれない。

 

 

とはいえ、英語ネイティブにとって独占的に有利な状況が少しずつ改善されることを期待したい。

 

2024年の現時点ですら、翻訳AIの技術は言語バリアを緩和することに大きく貢献している。将来5Gやさらなる高速通信が普及すれば、母国語への同時通訳を常時流しておくことも可能になるだろう。

 

また、現在の特権階級にいる英語話者15億人の中から、言語による利益構造を改善する啓発運動が進むことを期待する。その発端が英語話者の8割を占める非ネイティブ層なのか、残り2割の純粋なネイティブ層なのかは分からない。

 

しかし、人種差別や性差別など、この100年で大きく変わった社会情勢を踏まえれば、僕たちが生きている間にこの言語に基づく利益構造にも何らかの変化があると望みを持つことはそれほど突飛な話ではないのではないかと思う。