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森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」~ド定番だろうが古典だろうが真に面白かった本だけを紹介していく~

ド定番だろうが古典だろうが真に面白かった本だけを紹介していくシリーズ

今回は森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」をご紹介する。

 

booklive.jp

あらすじ

「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作!(BookliveさんHPより抜粋)

 

この本をただのラブコメだと思ってはいけない。

 

僕はこの本を6、7回は読み返しており、面白さで言えば真っ先に紹介したい1冊だったのだが、そうしなかったのにはワケがある。

 

まず、自分自身が初読みの際、文体があまりに独特で経験したことのない世界観だったため、「何だこの本は!」と拒否感が先行してしまったことがある(といいながら即座に再読したい誘惑にかられ、気が付けば森見中毒になってしまったわけだが)。

また、この本は明らかに京都大学が舞台であり極めてローカルなお話であるだけに、京都に思い入れがない方にはどこまでオススメしてよい本なのだろうかと思っていた。

そして最後に、というか紹介文を書いてこなかった理由の99%はこれなのだが、この本の魅力は自分の文章力ではお伝えしきれないのではなかろうかという不安があったからである。

 

以上、うだうだと前置き(言い訳?)を書いてきたが、結論を言うと、本作の面白さは無類である。

 

主人公の「先輩」は京都大学の学生であり、多くの京大生(おそらくは筆者の森見氏も)がそうであったように、不毛で灰色の青春を謳歌してくれる。それに対するコントラストとして繰り広げられるもう一人の主人公「黒髪の乙女」の学生生活は、京都在住の人にもそうでない人にも色鮮やかでファンタジックな京都の姿を思い描かせてくれる。

 

ちなみに、森見氏の作品の多く(すべて?)は京都を舞台にしており、本作や「四畳半シリーズ」のようにポップで"阿呆"なものもあれば、「きつねのはなし」や「夜行」のように暗くて厭な気配に満ちたものもある。

これらの作品のトーンは正反対である。しかし、これらの作品には時折共通の人物や店が登場することがある。自分はこうした共通点を見つけるたびに、あたかも表の京都から裏の京都に迷い込んでしまったかのような、ポジとネガが反転したような錯覚を覚える。だが、京都という街にはそうした不可思議な二面性がとてもしっくりくるようにも思う。

 

話が大いに逸れたが、本作もそんな不可思議な京都を舞台に、2人の主人公が大学生活を送る姿が生き生きと描かれている。京都に暮らしたことがある方は懐かしさに悶絶し、ない方はなぜ京都に住まなかったのかと悶絶すること請け合いである。

 

4話立てですぐ読み切れる分量なので、年末年始に京都に行く方はぜひ旅行鞄に忍ばせていただければ幸いである。