おーい、えび。

えびのたわごと

京極夏彦「姑獲鳥の夏」 ~ド定番だろうが古典だろうが真に面白かった本だけを紹介していく~

まえがき

僕は読書が好きだが、月に数冊しか読まない。理由は単純で、読むのが遅くて時間がかかるからだ。そういうこともあって、自分の中で読書は映画などと同様に、少しリッチな時間の使い方だと考えている。

だからこそ、読む本は慎重に慎重に選ぶのだが、世の中には「究極の徹夜本!」とか、「最高傑作!」とか心をくすぐる煽り文句が溢れており、残念ながらハズレを引くこともままある。これは単純に好みがあうあわないという問題のほかに、商売だから多少盛っているということもあるだろう。ブログのランキング記事なんかであれば、せっかく読んだし数に入れておこう、という紹介する側の心理から数合わせ的に挙げられている本もあるのかもしれない。

いずれもそういうもんだろうなと理解できるので全く悪いとは思わない。思わないのだが、僕は本当に面白い本が読みたいのだ。

 

ということで、このシリーズでは、ド定番であろうが古典の名作であろうが読書ブログで紹介しつくされてテカテカになっていようが、僕が本当に面白いと感じた本を紹介していくことにする。(なお、そんなにストックは多くないので尽きた時点でシリーズ終了である。)

 

京極夏彦 百鬼夜行シリーズ 「姑獲鳥の夏

bookclub.kodansha.co.jp


僕が読書を好きになったきっかけの1つでもあるのがこの本である。

 

この百鬼夜行シリーズは、妖怪の所業と思われるような不可思議に対して、探偵役である京極堂こと中禅寺秋彦古書店主としての(?)でたらめな知識量と神社の神主としての(?)憑き物落としの手腕で事件を解決する新本格ミステリである。本作は妊娠20か月の妻を残して夫が失踪するという俄かには信じがたい依頼が京極堂に持ち込まれるところから始まる。本のあらすじはアマゾンさんを参照いただきたい。

 

魅力は何と言っても、しっかりとミステリでありながら、怪談や妖怪、民俗学といった要素を本当にうまく融合させたことだと思う。数々の蘊蓄や披露される解釈には並々ならぬ妖怪への造詣と愛を感じる。wikipediaによれば筆者は世界妖怪協会の評議員でもあるらしいが(どうやって選ばれるのだろうか…)、それもうなずける。

 

全シリーズを通してもこの第1作はかなり怪談的テイストの強い作品である。ホラー要素とミステリは相性がいいのは数々の名作が証明しているが、これほど妖怪をリスペクトして現代(物語は戦後)の文脈に落とし込んだ小説は初めてなのではないかと思う。他にあれば是非教えてほしい。なお、ホラーとミステリの配分でいうと横溝正史三津田信三のちょうど真ん中くらいである(伝わるだろうか)。なので、怖い話やグロい話が苦手な人にはあまりおすすめしない。

 

京極夏彦といえばレンガ本と呼ばれる分厚い文庫で有名で、紙媒体で読むとすぐ腕が上がらなくなるのだが、デビュー作でもある本作はシリーズ1作目であり、比較的薄い部類に入るので、その意味でも入門編としてオススメしたい。

 

なお、もしこの作品が好きなジャンルだという人には、百鬼夜行シリーズを追ってもらってもよいが、僕個人の意見としては第1作が一番ミステリとして面白いと思う。理由は、続くシリーズがどれも分厚すぎてミステリとして緊張感を持ったまま一気読みするには長すぎるのだ(要は前の方を忘れてしまうのである)。

ミステリと呼べるかは微妙だが、むしろ巷説百物語シリーズの方をおすすめしたい。舞台を江戸時代に移し、怪談話の舞台裏を描いたもので、こちらも筆者の手腕が遺憾なく発揮されている。