おーい、えび。

えびのたわごと

国防関係のマンガ・文学って意外とある

ウクライナとロシアの戦争が始まって以降、これまで読んだことがなかった国防関係のコンテンツになかば無意識的に手を出し始めた。

 

恥ずかしい話だが、戦争をしているのが日本と国境まで接しているロシアという国であっても、未だにウクライナとの戦争は他人事のように捉えてしまっている自分がいる。

 

そんな中で「空母いぶき」という漫画を読んでぶっ飛ばされた。

bigcomicbros.net

この漫画は映画化もされていて結構有名みたいだが、ざっくり言うと尖閣諸島が中国に軍事侵攻された日本のお話である。何がすごいって、リアリティがすごい。国土が外国に侵攻されるということは国レベルの出来事としてはなんとなくでイメージすることはできるが、この漫画ではそれを個人レベルの解像度で仮想体験する。

 

ネタバレは避けるが、自衛隊の責任者や総理大臣をはじめとする閣僚らが直面する一つ一つの決断の機会、その責任の重いこと。読んでいてしんどくなるくらいだが、それでも読むことをやめられない。首ねっこを掴んで無理やり読まされるような感覚すらあった。

 

そしてもう1つ重要なことは、これがフィクションだ、作り話だ、と分かっていてもなお、作中の中国への憎悪が心に生まれていたことだ。これは恐ろしい気づきだった。現実世界ではロシアーウクライナの戦争において国家レベルの介入によって多くのフェイクニュースが流されているという報道がある。そうしたプロパガンダに自分は容易に染まってしまうのではないかという危惧を持った。

 

また、もし仮に本当に日本の国土が侵攻された場合、世論が理性的な判断を下すのは極めて難しいのではないかという懸念も同時に感じた。作中では総理大臣が人格者として描かれていたが、実際問題として総理の決断とはつまるところ民意の凝結したものであり、世論が及ぼす影響は決して小さくない。とりわけ非日常で一刻を争う事態が連続するような場合、総理が心の拠り所(悪く言えば後世に向けた言い訳)に使いうる世論というものが正常なものである保証はないのだろう。

 

同じくリアリティという意味で、「同士少女よ、敵を撃て」もすごかった。

www.hayakawa-online.co.jp

 

本屋大賞を取っているくらいなので内容の面白さについては今さら僕があれこれ誉めそやす必要はないだろう。(ミステリじゃないのにアガサ・クリスティー賞まで取っているのはなぜ??という疑問はあるが。)

同作品は第二次大戦中の独ソ戦で、実際にいたという女性兵士のお話である。こちらは戦争の汚い部分、つまり拷問や略奪、レイプなどの戦争犯罪についてもしっかりと扱っていて、現在のウクライナーロシアの戦闘地域の状況と嫌でもリンクさせてしまう。

日本ではあまり報道されていないが、僕の住むイギリスでは毎日のようにBBCがロシアによる戦争犯罪についてショッキングな映像も交えながら報道している。実際そうした犯罪行為はロシアによってのみ行われているのか、そうでないのかは分からないが。

 

この作品にせよ「空母いぶき」にせよ、僕が不思議に思うのは、こういう作品を書ける人たちというのはどういう情報源や経験によってこんな具体性のある軍事モノの作品を創造できるようになったのだろうかということだ。

 

もう少しポップ寄りの作品としてはあおざくら防衛大学校物語というの漫画が連載中で、非常に面白い。

websunday.net

 

ここでも浅学を露呈するが、防衛大学校というのは自衛隊の幹部候補を育てるための大学だというのも僕はこの漫画で初めて知った。少年サンデー連載ということで内容は上の2つよりはもう少しライト層向けで学園青春モノと言えるかもしれないが、カリキュラムや訓練の内容などは現実の防大のそれに準拠しているようである。

 

高校を卒業したばかりの遊びたい盛りの年代の子たちが住み込みで国防のための訓練を受けているということだけでも頭が下がる。そういう努力をしている方々が将来は自衛隊の幹部となって、有事の際には国民や国土の命運をかけた決断を下すのだというのを(僕以外の人たちはとっくにご存じなのかもしれないが)もっと多くの人に認知してもらえると良いなと思った。