おーい、えび。

えびのたわごと

ケニアの首都ナイロビに電動バスが走る日

僕が滞在しているナイロビにて面白いニュースを見つけた。

 

ナイロビの伝統的な交通手段であるマタトゥ(個人所有の小型バス)に電動化の波が来ているというものである。

 

※引用元

edition.cnn.com

 

背景情報

ナイロビはケニアの首都で、その中心部の街並みはタイなどのアジア新興国にもまったく引けをとらない発展ぶりとなっている。

 

都市化の一方で、車の排気ガスによる大気汚染もひどく、窓を開けて半日外を移動しただけでも喉が痛くなり、鼻水が黒ずむという有様である。コロナ禍では上記のマタトゥというバスの運行が制限された結果、3日ほどで市内の空気が澄んで遠くのケニア山が見渡せるようになったという。

 

電気自動車は排ガスを出さないので、もし町中のバスが電動バスに入れ替われば大気汚染が大きく改善されるのは間違いないだろう。

 

また、ケニアは地熱や水力のような再エネが電力の90%を占めるようで、電気を作る段階での化石燃料の消費が圧倒的に少ないことから、電動バスへの切り替えによる温室効果ガスの削減効果も高いと期待できる。

 

2つの新しいスタートアップ企業

記事ではBasiGoRoamという2つのスタートアップ企業がナイロビにおける電動バス導入の旗手として紹介されていた。

 

まずBasiGoの方だが、マタトゥという個人所有の小型バスの運転手に電動バスを売るという業態となっている。

 

面白いのは、電動バスを一台まるごと売るのではなく、乗った分だけ課金するという支払い形式にある。これによって初期コストを抑えることができる(バッテリー部分はBasiGoの方が所有し、古くなれば交換したり別用途にリサイクルされる模様)。

 

さらに、上記の料金には充電代とメンテ代がすべて込みになっているという点も嬉しい。これらの料金体系が既存のディーゼル車との競争を可能にしている。

 

充電時間は4時間で250km走行可能とのこと。ナイロビの面積は東京23区よりちょっと大きいくらいなので、それだけあればバスの運行にはまあ事足りるだろう。

 

 

Roamの方はケニア市場に特化した車体サイズやバッテリー容量を用意しており、空港~市内間の90人乗り大型シャトルバスと市内用の小型バスの2つのラインナップを展開する。

 

費用も従来のディーゼル車と比べて1km当たり30~40ケニアシリング(約30~40円)ほどお安くなっており、購入者は4~5年で元が取れる計算とのこと。専用の充電ステーションも今後運行ルートに沿って導入予定だという。

 

 

雑感

個人的にはこうした問題解決型のビジネスモデルがとても好きだ。社会の問題に対して解決策と経済発展がピタッとかみあい、そこにあるべきだったものがしっかりはまった感覚が心地よい。

後者のRoamは持続可能なソリューションに与えられるアースショット賞という賞の2022年ファイナリストでもあるらしい。納得である。

 

他方で、ナイロビでの日本車のこれからの優位性には懸念も覚える。2023年2月現在、ナイロビの街中にはトヨタ、日産、ホンダ、スズキ、大型車であればISUZUといった日本車が溢れかえっている。

 

これらの日本車はどのタクシーの運ちゃんに聞いても評判が高い。特にトヨタは壊れにくく、修理部品もすぐ手に入るから故障しても心配がないとのこと。僕が「お金をいくらかけていいから車を1台買ってもらえると言われたら?」という質問をした際の断トツ1位もトヨタだった。これらの日本車の多くは中古車だそうだ。

 

しかし、電動バスについてはどうだろうか。

www.nikkei.com

この記事にもあるように、国内でも電動バスはこれから増えていく段階の商品といったところで、そこまで普及している印象がない。

 

翻ってナイロビの記事に戻ると、BasiGoは2025年までに1,000台、Roamの方は入札の結果によっては100台の導入を見込む。充電ステーションのようなインフラ整備も含めると、これらの先行企業による電動バスがデファクトスタンダード化している可能性がある。中古車がナイロビに届くようになるまでには日本産の電動バスが入る余地は残されていないかもしれない。

 

ナイロビは東アフリカの経済的な中心地であり、ここでの成功はケニア国内の他都市やエチオピア等の近隣諸国にまで波及する可能性もある(記事によれば少なくともBasiGoはそれを視野に入れているようだ)。

 

今後2050年までに人口が10億人も増加すると見込まれるアフリカ市場において、こうした出遅れが電動バスのみならず多くの業種において生じているのではないかという不安は拭いきれない。

 

特に、ディーゼル車からいきなり電動バスへ、といった一足飛びの発展が生じているアフリカにおいて、日本が優位性を持っている「少し前の技術」を使った既存製品やサービスの輸出は時代遅れとなってしまう可能性もある。今回の電動バスによる問題解決型のサービスはその好例であろう。

 

僕の故郷より遥かに賑わっているナイロビの幹線道路を眺めてコーヒーをすすりながら、そんなことを考えている。