前回のつづき。
もう1つの政治家に失望した話は高市元総務大臣らによる放送法の解釈を巡る一件である。
放送法問題の概略
先にニュースをまだ御覧になっていない方向けにざっくりと問題を整理しておく。
まず放送法においてはメディアが政治的に公平でなければならないと規定されている。その判断基準としては、TBSを例に挙げると、ある1つの番組(サンデーモーニング等)という単位ではなく、TBSという局の番組(News23とか諸々)全体でバランスが取れていれば良いとするのがそれまでの解釈だった。
この解釈を安倍総理、総理補佐官だった磯崎氏、そして放送法を所管する総務省の高市大臣らが変更した。具体的には、1つの番組(サンデーモーニング等)が極端に偏向報道をしていれば、それだけで一発アウトと言えるようにしよう、という解釈変更である。
この変更内容、及びその経緯が問題視されているということである。
解釈の変更に伴う影響としては、やはり時の政権に対して批判的な報道を行うメディアが一発アウトを喰らいやすくなり、言論弾圧につながるということだろう。このため、当時の総務省担当者や官邸の総理秘書官らはかなり抵抗を示したようである。*1
もう1つの問題点はその検討経緯である。この解釈変更は国会質疑で高市総務大臣から藤川議員(自民:総理補佐官だった磯崎氏の代打)の質問に答えるという形で行われた。国会で答えたことはそれが政府見解となるからだ。
本来であれば憲法における表現の自由とも密接に関係する問題であるため、この解釈変更は極めて慎重に行われるべきデリケートな内容と言える。しかし、総務省が公表した一連の文書を読む限り、議論は完全に官邸と総務省との水面下のみで行われており、影響を受けるテレビ局関係者や外部有識者などからの意見を取り入れることはなかったようだ。こうした不透明なやり取りが表現の自由に関わる重大事案に対して執られていたことにも批判がある。
胃が痛くなるやり取り。けど、まあこれは想定内。
僕なりの所感その1。今回は磯崎総理補佐官が総務省の局長ら官僚に対して人事権をちらつかせながら恫喝するようなやり取りをしていたことも批判の対象として挙がっている。
俺の顔をつぶすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ。首が飛ぶぞ。
(総務省公表資料p.58)
など。
このようなやり取りは読んでいて胃がキリキリする話だが、まあ官僚として長く勤めて幹部ポストに就けばいずれ経験することになるのだろうなと思う。実際、こういうところで抵抗して出世レースから脱落し、事務次官になれなかったりした人も今まで大勢いただろう。
放送法の解釈変更の手続きや内容もひどいなとは思う。ただ僕はその道の専門家ではないのでここでは深く語らない。
残念な部分はそこじゃない
僕が一番失望したのは高市元総務大臣が総務省の公表した文書のうち、自身と総理とのやり取り等に関する部分を「捏造だ」として、大臣や議員からの辞職を否定していることだ。
これはかつて自分が総務大臣であったときに支えてくれた部下たち、総務省の職員による仕事を完全に侮辱している。日本のトップである総理を目指している人間が言う言葉ではない。
この発言によって、僕は「ああ、この高市という人は自分の保身のためならかつての部下を切り捨てることなど何とも思っていない人なのだろうな」と思い、完全に失望した。
念のため言っておくと、僕は高市氏が主張していることも全く分からないわけではない。この手の議事録は基本的に役人同士が情報共有するための文書なので、いちいち発言者である大臣や総理に記録の正確性を確認することなどしない。(そこまでしていたらとてもじゃないが仕事にならない。)
おおかた大臣の秘書官あたりが電話後に「どうでしたか?」と尋ねて、「こうだったよ」と返ってきた話をちゃちゃっと記録したにすぎないのだろうとは思う。
だが、それは文書の正確性が低いという次元の話であって、捏造とはまったく違う。
捏造とは事実ではないことをでっち上げることを言う。高市氏はかつての自分の部下が虚偽の文書を作って自らを貶めようとしていると言っているのだ。
実際のところ捏造かどうかは当事者しか分からないが、僕はこう思う。
①官邸主導で法解釈変更の動きがあったことは高市氏含め誰も否定しておらず、そして②最終的には官邸の意に沿った答弁を高市氏がしたのも事実だ。であるならば、①と②の間で高市氏が何ら関わらないことなど逆に可能なのだろうか?と。
そもそも、大臣に何の説明もなく国会で答弁してもらうのは不可能である。むしろ、こんな重要案件について一切内容を理解せず、官僚が用意した原稿をただ読み上げただけです、というのであれば総務大臣としての職責を果たしていないのと同義だ。
①と②が事実である以上、高市氏が安倍総理と電話をした云々が捏造か否かに関わらず、高市氏の関与は決定的なのだ。
にも拘わらず、自身の保身のためにつまらない抗弁をしてかつての部下らを「捏造」疑惑で貶めている。
この点がとても残念に思った。
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