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殊能将之「ハサミ男」 ~ド定番だろうが古典だろうが真に面白かった本だけを紹介していく~

ド定番だろうが古典だろうが真に面白かった本だけを紹介していくシリーズ。

今回は殊能将之の「ハサミ男」をご紹介する。

 

bookclub.kodansha.co.jp

 

いきなりだが、僕はかなりのビビりである。加えて、指を切って血が出たという話を聞いただけで顔をしかめたくなるような痛がりでもある。そんな性格だからなのかは分からないが、読書においてはその真逆、怖いもの見たさからいつしか連続殺人鬼や猟奇殺人を扱ったミステリを好んで読むようになってしまった。今回紹介する「ハサミ男」もそんな1冊である。

 

あらすじ

講談社さんのリンク先より。

美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。3番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作! 

 

猟奇殺人を扱ったミステリでは、一般的な殺人事件(?)と比較して、犯人の心の闇に読者の関心が集まるものだ。要は、なぜそんなひどいをする人間がいるのかという説得力こそが猟奇殺人における重要な要素の1つなのだ。本書の素晴らしいところはそういった殺人鬼の内面の描き出しが卓越しているところにある。なんせ、この小説の一人称は猟奇殺人犯「ハサミ男」ご本人なのだ。

 

家でくつろぐ殺人鬼。会社に向かう殺人鬼。朝食を作る殺人鬼。

 

普段なら絶対に見ることのない舞台裏が余すところなく描写されており、その随所に殺人鬼ならではの凄みを感じさせられる。読者はあたかも殺人鬼の守護霊になってしまったかのように、コントロールの効かない事件のなりゆきを為すすべなく見守るしかないのだ。ほんとに、、こんなリアルな殺人鬼を書ける作者の頭はどうなっているのだろうか(もちろん誉め言葉)。

 

 作者はこの作品でメフィスト賞を受賞してデビューしたものの、残念ながら若くして亡くなられている。別の作品の「美濃牛」も読んだが、オーソドックスなミステリといったところで、正直「ハサミ男」の圧倒的衝撃は超えられなかった。しかし、作品のクオリティ自体はとても高かったので、この方の文体が好みの方は手を伸ばすのもよいだろう。