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霞ヶ関のブラックな働き方 後編 ~不夜城の明かりの消し方について~

前の記事↓では長時間労働の権化とされる霞ヶ関の労働体質についてご紹介した。

ooiebi.hatenablog.jp

今回はそんな不夜城の明かりを消すにはどうすればいいのか考察してみた。

 

 

残業を減らす方法はとてもシンプルで、①仕事量を減らすか、②仕事の効率を上げるか、③作業する人員を増やすか、この3点である。加えて、役所の仕事の特殊なものとして、「国会待機」というものがあり、これを加えた4つの切り口で何ができるのか考えていきたい。

 

国会改革は霞ヶ関を変える切り札になるか

長時間労働の原因としてメディアで最もよく言われるのが国会対応だ。これは仕事量、その効率の観点、そして「国会待機」の観点で影響が大きい。

 

結論から言うと、国会関連の業務を合理化することは霞ヶ関全体としての残業を減らすに当たって即効性は抜群だと思われる。ただ、国会では基本的に世間で話題になっている新しい課題が取り上げられがちなので、部署によっては国会対応の多いところとそうでないところもあり、効果にはばらつきがあるだろう。以下、解説していく。

 

1.霞ヶ関と永田町の関係について

まず大前提として、国会議員はみな選挙で選ばれた「国民の代弁者」である。そして、国家公務員(官僚)は国民全体の奉仕者なので、我々にとって国会議員とは一番身近な奉仕先であり、民間企業風に言えば得意先ということになる。

 

実際問題として、議員の中には国のためというよりも自分の地盤への利益誘導ばかり考えている人もいないとは言えないが、大部分は「国民」を代表する立派な方々である(し、そうあってほしい)。

 

そして、もう1つ留意すべき事項は役所の果たしている機能についてである。その昔、国会というのは立法府、つまり法律を作るところだよと教わったと思うが、実は法律の多くは国会ではなく行政府である各省庁の官僚が下書きしている(閣法という)。

 国のルールである法律を作るという作業は生半可な検討ではなく、ちょっと考えられないような労働強度で缶詰し、それこそ血と汗と涙が染みこんだ法案をチームで作成するという、紛れもなく省を挙げての一大プロジェクトなのだ。

 

法案は国会での審議を乗り越え、可決されて初めて法律となるので、法案の成否を握る(特に与党の)国会議員に対して官僚は頭が上がらない構造になっている。

 

かくして、国会対応は役所にとって最も優先順位の高い仕事となるわけであり、官僚の1年生は入省後もれなく、これらのことを口酸っぱく叩き込まれるのである。

 

2.国会、国会って言うけど何をやっているのか?

 さて、そんな関係にある国会対応とは実際何をするのか。これは大きく3つに分けられる。すなわち、

 ①国会内で行われる質疑の答弁作成

 ②国会議員からの求めに応じた各種説明や資料開示

 ③質問主意書の対応

 

聞きなれない用語もあると思うので、以下参考になりそうなサイト↓。

官僚が自転車で疾走~真夜中に届けるものは…|NHK NEWS WEB

霞ヶ関の過酷な労働実態。若手官僚から悲痛な声 「マスクを外させられた」「国会議員対応のために出社」… | ハフポスト

霞が関の嫌われ者 “質問主意書”って何?|NHK NEWS WEB

 

例えば、翌日の国会質問が出尽くすまでは関係する役所の人員はこぞって待機するしかない。それは、(コロナ前であれば)飲み会を予約していた花金の夜でも勿論キャンセルして待機するし、電車が止まるような台風直撃の日であってもそうだ。そして、もし質問が当たろうものなら、それが完成するまでは徹夜するしかない。

 

国会議員や党から紙資料の要求があれば印刷してウーバーイーツの出前のようにお届けに上がったりもする。メールで送るから勝手に印刷すれば?とはもちろん言えない。

  

主意書の回答の様式はミリ単位で決まっていて、少しでもずれていれば受け取ってもらえないが、若手役人はため息をつきながらインデントを直す以外に道はない。

 

なぜかといえば、それが国会議員と役人の関係だからである。

 

とはいえ、こうした対応は、国会議員が代弁しているはずの国民の皆さんの意見(僕だって国民の1人だ)とは到底思えないのも事実である。

 

まず、質問内容と関係ない役所の職員が何百人と待機したり、紙の資料をお届けに上がったり、レイアウトに必要性のよく分からない労力をかけたりしていることで生まれる残業代はすべて税金なのだ

 

国会議員が質疑をする際には2日前の正午までに質問内容を通告することが与野党間の申し合わせとして決まっている。しかし、これを守っているのは大体が与党議員で、野党議員は一般論として前日の遅い時間に出してくることが多い。(通告が遅い与党議員も、早い野党議員ももちろんいることに留意。)

 

その理由はこれまた一般論だが、野党は国会質疑の作戦として、政府側に十分な準備時間を取らせないことで答弁ミスや論理の綻びが生じるのを狙っているからだと言われている。

 

いやいや。

 

政策の中身で勝負しましょうよ。

 

国会は全国民の代表機関、立法の最高機関のはずなのだ。国会運営には1日3億かけて行われていると言われているのだ。そんな重大な場で表明される政府の見解が、実は深夜に職員が眠い目をこすりながら、関係する他省庁と十分な議論の時間も取れず、実際に答弁する大臣や副大臣にもロクに説明や相談ができないまま出来上がっていく状況。これが国会のあるべき姿と言えるのかはよく考えなければいけない。

 

3.国会改革、どうすれば進む?

国会改革を進めるための結論を最初に書いてしまう。根本的な解決策は、世論が「この状況変えないとおかしい」という方向になっていくことである。これに尽きるし、それが僕が筆をとっている理由でもある。

なぜかと言えば、国会議員は「国民の代弁者」だからだ。議員は票を得てナンボの世界であり、有権者(世論)の関心がないことには、”よし一丁やってやるか”というインセンティブが働きづらいのだ。

  

その前提で、やはり真っ先に手を付けたいのは無駄な「国会待機」を減らすことだろう。多くの場で提言されていることだが、「質問内容の提出を2日前正午にするルールを徹底すること」が極めて有効である。何の原価もいらず、ただ習慣を改善するだけで残業時間もそれに支払われる税金も減らせるのだ。

 

そして、ルールを守れなかった人はその通告時間ともに毎日ツイッターなどで公表((通告時間の問題は、議員本人の問題のほかに、質疑が行われる委員会の開催が前日直前に決まることに原因があることもある。このあたりは委員会の開催が決まった時間も公表していいと思う。なんせ、議員にも政府側にも十分な準備時間が与えられないのも改善すべき問題だからだ。))すればいいのだ。これによって、国会のプロセスが透明化され、この問題を考える際の材料を世論にちゃんと提供していくことができる。

 

多くの国民の方々が、

・国会待機で発生する残業代は議員の工夫次第で削減できる経費だよね。 とか

働き方改革を掲げる党や議員が残業を助長していていいのか。 とか

・もっと国会の論戦を充実したものにするよう準備時間を確保させろ。 とか

色々な思いを持って下さることがとても大事だと思う。

 

一方、もちろん役所の側にも改善の余地は多く残されているようにも思う。国会答弁の作業で最も時間がかかるのは、決裁の最後の方で答弁の方針が大きく書き変わるケースだ。

 

国会答弁の決裁は例えば大臣答弁の場合、

係長(係員)→補佐→総括補佐→課室長→総務課の総括補佐→総務課長→審議官→局長→官房総務課の総括補佐→大臣

と、極めて多くの人のチェックを経て作成される。この終盤の局長や大臣のところで積み上げたものがふりだしに戻ることもあり、我々下っ端は歯ぎしりをすることになる。

 

これを防ぐため、省庁によっては局長や大臣におおまかな回答方針を速やかに相談してから答弁作成をしているところもあるようだ。こうした作成手順の見直しや、決裁に関わる人数を絞るなどの合理化を図ることも勿論ながら重要だ。省庁間で優良事例をこまめに共有していくことで、思考停止せず、常に新しい改善を探ることも必要だろう。

 

次に国会議員への説明や資料にかける時間についてだが、これはコロナ禍でのテレワークの流れが良い方向に作用しているように思う。

 

若い議員の先生の中にはウェブ会議で説明することを許してもらえることも増えたし、資料はメール送付で良いケースも出てきている。一刻を争う国会の仕事においてはこれは非常にありがたい。妊婦さんや小さい子どもがいる職員など、通勤が難しい、あるいは負担となる方でも国会業務に貢献できる可能性が広がっているという声も聞く。とても喜ばしいことだ。

コロナ後もこの機運が維持されることを願っている。

 

だが、やはり最後に考えておきたいのは作業する人員が恒常的に不足している問題である。どれだけ国会の作業を効率化したり減らしたとしても、国会質疑や主意書自体は少なくとも今の国会運営、さらに言えば民主主義のプロセスが変わらない限り重要な仕事として今後も残り続けるわけであり、必要な作業には必要なだけ人を付けるしかないのだ。

 

役所の側でできることもいくつかあるだろう。中でも最も有効と思われるのは、中途採用制度の強化である。民間経験を持つ方や、一度霞ヶ関を離れてアカデミアなどで働いていた人をもっと自由に採用することで、即戦力を確保していくことだ。

 

これは言わずもがな、霞ヶ関が民間やアカデミアなどよりも魅力的な職であることが最低条件になる。残念ながら即戦力の世代が一番辞職率が高い役所においては、まずは上に述べたような改善が行われていくことが第一歩かもしれない。

 

また、国家公務員は本当に今の数のままでいいのかという本質的な議論も必要だ。

 

ストライキ権を持たない国家公務員は自分たちの労働環境に異を唱える手段は限られており、公務員数の状況を変えていくことができるのは内閣や国会議員、すなわち政治家である。しつこく書いているとおり、政治家を動かしているのは世論であり、有権者である。一人ひとりが声を上げていくことがこの問題を解決に向かわせるための原動力になることを改めて強調しておきたい。

 

長くなってきたので一旦このあたりで国会関係の改善については一区切りにしておく。

 

※この記事は所属する組織の見解を示すものではなく、あくまで個人の見解を書き連ねたものです。また、なるべく正確な情報を記載するよう努めていますが、必ずしもすべての情報の事実関係の裏付けを取り切れていないことがあります。